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虹の翼、石の羽





────ここは何処か。
取り合えず、とある博物館としておこう。




といっても並ぶのは珍奇な南洋の民芸品や巨大な羆の剥製ではなく、無骨な石くれ。
────ただし、その石は様々な形をしている。尖っていたり、グネグネ曲ってたり、
────奇怪な獣の頭蓋骨をを象っていたり。
そう、ここは様々な古代生物の化石を収蔵した地質博物館。

巨大な長頸龍が頸をもたげ、暴君龍が向かいで吼える。
剣歯虎が牙を剥き、マンモスもまた牙を振り上げている。
ただし、骨になって凍りついたままで。


たしかに迫力は満点だが、舞台は厳密にはココではない。

博物館の裏手に回ろう。
其処には頑丈そうだが、古ぼけた似つかわしくない大倉庫がある。
中に入ると、博物館とは比べ物にならない程の化石の山、やま、ヤマ。
未だ埋まっていた岩石から取り出せてなかったり、展示するほど価値が無かったり、
そういった、表には出さない博物館の化石収蔵品を仕舞いこむ場所である。

その物陰に、何かが動いた。
立ち上がる。  ………────子供だ。
何処から忍び込んだのやら、手には何か隠している。
こそこそと巨大なアンモナイトの影に行くと、その影でしゃがみこんだ。
どうも持っていたのは拾ってきた薄汚いマンガ雑誌らしい。

しばらく、ページをめくる音だけが静寂に響く。
何か面白かったのかクスクス笑い始めた。そこに、


ぴりりりり、ピリリリリ。


びっくりして慌てふためく。持ってたランドセルの中の携帯が鳴ったらしい。
慌てて手に取り────
不審な顔。受信を押し、出来るだけ小さな声でモシモシと呟く。
更に疑念が顔に広がる。
辺りをきょろりと見回し始め、少し移動して、また見回し、上を見て。


「  …………────え?」


少年の目の前にあるのは───巨大な鳥だ。

翼長10mはあろうかという、鳳凰のような大怪鳥。
それがレリーフの如く泥岩に張り付き、羽さえも印象として残った、見事な化石。



少年はその化石を、右手に携帯を持ったまま呆然と見上げていた。





















────さて、この文章をご覧の皆様。

これより暫くの間、あなたの精神は貴方の身体を離れ、
電子の文字列の狭間で渦巻くこの奇怪な空間へと紛れ込んでゆくのです。


今の内に、どうか心と身体のご準備を。
















満員電車がホームに入り、大量の人が吐き出されてゆく。
いつもながらの日常風景。

階段を降り、改札を過ぎ、駅前に出た後しばらく街中を歩いた。
何処にでもある青い看板のコンビニを過ぎ、その内見えてきた雑居ビルに入る。
エレベーターが上昇していったので、ヤレヤレといった表情で狭い階段を上がっていく。
4階あたりで登るのを止め、すりガラスのドアを開けて入っていった。
そのガラスに三分の一ほど剥がれかけでひっついてるのは、下記の文字列。

  《 九 心 猫 社  『クリプトロジー』雑誌編集部 》

出会った同僚に挨拶し、編集長が未だ来てないのを確認しながらタイムカードを押す。
よっこらせと席に座り、とりあえずPCを立ち上げ、昨日の編集作業の残りを確認した。


────────さて、ココまで来て一連の行動を描写している彼、未だ名前が無い。
ココは取り合えず────………

そう、”雑誌記者”とでも呼んでおこう。


とりあえず型だけの朝礼。
そして仕事開始。
まあ作ってるのがマイナーなオカルト雑誌というだけで、何の特徴も変哲もない男である。
ひと段落した後、雑誌記者はコーヒーを持って斜め前にある同僚の席へ向かう。
デジタルカメラやらUSBメモリやら電子機器がどこぞの神殿の如く散乱した卓上にて、
その同僚は見事突っ伏し居眠りタイムエンジョイ中である。

「………おいおかじー、まだ10時だぞ」
「────ん?う゛ぁ?そか」
マウスパッド痕つきでネボケ面を上げたのは眼鏡の小男。名は岡島、故におかじー。
相当なPCオタで、趣味はネットウォッチだそうだ。

「俺さー、明け方までブログ炎上したサイト見てたもんでさー。眠いんだわー。すまんなー」
「お〜い起きろ給料ドロボー。俺が頼んでた写真コラどうなったよー?」
「ついでに一昨日起こった廃炭鉱の崩落事故の実況にも参加してなー、脳ミソ限界だわー」
「んで?写真のコラどうしたよ?出来てんのか?」
「後自衛隊への連続クラッキング事件のブログも見てさー、あーもう限界こえてんな俺ー」
「だから!頼んでた写真は!?」
「無理ですた。  ぐう」
「ぐうじゃねーだろ!おい!」

「その様子じゃー無理だろ。ほかしとけ」

近づいてきたのはこの雑誌の編集長である。
デブでハゲでテカテカしててしかもその上体育会系。
超絶暑苦しい事この上ない、頼りになるがしたくはない。
ちょっとどころではなくだいーぶ扱いに困る上司であったりする。

「いやでも編集長、まだ仕事が────」
「ボーナスから引いとくから構わん。…………それより、ちょっと頼まれていいか?」
「はい?」



返事をして数秒後、嫌な悪寒が背筋を周回したのを感じた雑誌記者。

後悔の女神というものは、えてして先に立ってはくれない。
そういうものである。












それから数時間後。


雑誌記者はトンデモなく山の中の廃炭鉱で、眉間をW字に皺を寄せて立っていた。
────山中の、廃炭鉱の筈なのに。
目の前をうろついているのは警察と、土木関係者と、
夏の羽虫の如くワラワラ湧いているマスコミ。

「はーぁ、ココがなぁ…………」
おかじーの睡眠不足の元凶の一つ、北山廃炭鉱の崩落現場である。

一まとめにされながらそれでもあふれて抜け駆けすようとするマスコミ達。
叫びながら必死でせき止める警察官。
警察のお偉いさんと土木関係者がそのすみっこで何か相談している。
その後ろには救急車やらブルドーザーやらが待機していた。



『北山廃炭鉱崩落事故』

TVで大体の概要は掴んでいる。
一昨日午後10時頃、山向うの北山町にて轟音と揺れが断続的に響いた。
住民は、この辺りでよく起こる地震だろうと気にも留めていなかったのだが────

────午後10:40分頃、民家に助けを求める数人の若者が現れた。
彼らは大学生の廃墟マニアで、北山廃炭鉱を探検しに来たのだという。
当然無許可で。
探検隊6名が坑内に侵入し、しばらく経って突如轟音と揺れ。そして山肌が大崩落した。
すんでの所で逃げ出した居残り組が坑内を見たところ坑内が大崩落を起こしていたという。
もちろん、探検隊6名を残したまま。

絶望視されながらも救助作業が昨日から続いているのだが、
巨大な岩盤が邪魔で作業がはかどらない。
恐らく、その岩盤の爆破でも協議しているのではないだろうか?



だが、雑誌記者の直接の目的はコレではない。
待ち合わせをしているのだ。編集長に頼まれて。

何でも昨日から怪奇現象の情報提供と云って、妙な電話が掛かっていたらしい。
売れそうにもない内容だったので間に合ってると答えたのだが
───────何度も掛けてくる。しつこい。
よって。
『その提供者に会って、丁っっっッッ重にお断りしてこい。交通費出してやるから』
『無視すりゃいーじゃないですか!何で会う必要があるんです!?』
『あーゆー手合いはな、しつこいんだよ。クレーマーと同じだ。
 だから直接担当者が会って対応する必要が有る。誠心誠意ウソついてこい』
『……何ですかソレ。俺人身御供ですか?』
『わかってるじゃあないか』


これが現在の雑誌記者の特命である。
もうやだこの会社。
何というか記者の仕事ではない。気分はどうしょうもなく場違いであった。



渡されたメモをチラリと見ると、
『北山廃炭鉱崩落事故現場 一番目立つところ 女     ?』と書いてある。

?って何だ?って。相手はオカマかニューハーフか?
ブチクサ云いながらその情報提供者とやらを探す。
「……事故現場で一番目立つところ……」
何処だ?
交通事故なら間違い無く白線引かれて転がってるヤツなのだが、現場は混沌としていた。
アバウト過ぎる。分からない。
ここまで苦労して電波な相手をどーにかせにゃなやんのか?
現場を一回りし、天見て地見て溜息一つ。
もう帰ろうかと頭を掻いた瞬間────

「こら────!そこのお前、なにやっとる────!!」

拡声器の声が響いた。
雑誌記者は驚き振り向く。周り中の作業員やマスコミ連中も反射的に振り返る。
何処だ何だと視線が錯綜し、やがてそれが一つに纏まり、収束したその先には、
廃炭鉱の真上のガケ。
傾いた岩盤の上に、人影一つ。
ベージュのコートにロングスカート。
腕組みをしたその上には、何故か作業員用ヘルメットを被った頭。
その人影が叫んだ。


「爆破は中止 !とーっとと中止しなさ────いッ!!」


相当な距離があるのに反響でもしたか、その声は炭鉱の有る谷間全体に響き渡った。
被害者の命がどーした、
坑内の状況がこーたら。
叫んでいる。
爆破に反対しているらしい。とゆーかまだ爆破すると公表もされてない筈では?
警察のお偉いさんと叫んで応酬。こちら側の拡声器と互角に張り合っている。
恐るべき声量だ。

その内、左右から警察関連らしき制服が忍び寄り、一気に両側から襲い掛かった。
哀れ人物は多勢に無勢、連中に取り押さえられて
────いない。
ちぎっては投げ掴んではコリッの武蔵坊某顔負けの大立ち回りを演じていた。
10分位かかってやっと取り押さえられ、ようやく引き摺り下ろされる。
その間、関係者達の視線をその一身に集中させていた。


ふと、雑誌記者の心中に嫌な疑念がよぎる。
…………まさかな?



人物は両腕を抱えられ仰向けに引きずられていく。ヘルメットはどこかへ行っていた。
女だった。やけにデカい。
ボサボサの長髪を後ろにまとめて黒ブチ眼鏡をかけている。
周りを好奇心旺盛なマスコミが取り囲んでマイクやらレンズやらをを突きつけるが、
彼女はむっつり顔でガン無視を決め込んでいた。

この時、雑誌記者の心に何があったか。

一般人としての羞恥心?
マスコミ関係者の端くれとしての好奇心?
異端者への嫌悪?
疑念を晴らす欲求?
どれとて正しいとは限らない。そのどれもがない交ぜになって、その結果────
雑誌記者は動いていた。声を上げた。

多分、何も考えてなかったのが正解に近いだろう。



「…………あの〜、雑誌『クリプトロジー』の者なんですが」

女の髪がピクリと傾いた。
次の瞬間顔がガバッとこちらをを向く。そして、

「────────よく来たっ!!!」


両腕押さえられてるのに、雑誌記者の目の前に恐っそろしい程満面の笑顔が突き出る。
雑誌記者の脳裏に少しだけ後悔が浮かんだ。
やばい。
変人だ。
すごい変人じゃないかこの女。
変人女だ。






────よって、ここで出てきたこの名無しの彼女。
これより彼女の事は雑誌記者命名により、

”変人女”と言わしめよう。













「いーいとこに来てくれたわぁー。あんがとさーん」
変人女は上機嫌であった。髪の方はまとめ直してまたひっつめている。
まあ見栄えは良くなった……のだろうか?
「…………身元引受人なんて、初めてなりましたよ」
彼女の後ろで砂利道を歩く雑誌記者。
顔と心は思いっきりのダークブルー。
天使のラッパが人類の終末を告げる核の冬の黒い雪の如く後悔が心の底に降り積もる。


目の前を歩く変人女は、まあ相当に変だった。

ベージュのコートに見えたのは、大学教授が着る様な白衣だった。
実は砂埃で薄汚れていたのだ。
ひっつめ髪からは後れ毛があちこち飛び出、顔にはめったに見れないような黒ブチ眼鏡。
コートの中は白いYシャツにベストを着て、下はチェックのロングスカート。
そしてこんな山中の廃坑の砂利道を、何故かバカ高いロンドンブーツで歩いている。
そのせいか身長は凄まじく高い。既に雑誌記者より目線は上だ。
180位行ってないだろうか?
────つまり、元も相当高い訳だ。

「全く……警察沙汰は勘弁してください?私らみたいなのはチェックされ易いんですから」
「はーいなはいな」
聞いてんのかこの女。
「それより私らをこんな所に呼び出した理由、とっとと教えちゃもらえませんかね?」
と云いながら顔を上げるとあら居ない。慌てて見回すと、
「何やってんのー?こっちよこっち──!!」
脇の樹木に覆われた横道に逸れていた。
何だろう、ついてったら撲殺後スーツケースin更に埋められちゃいそうなこの獣道は?



しばらく獣道を進むと事故現場から少し離れた広場に出た。
こちらも少し崩落している。
変人女はと言うとその広場の中心へと進み出て、ド真ん中でくるりと振り返った。
ロングスカートと白衣がふわりとひるがえるが、どーしても優雅には見えない。

「………どォお?」
「何が、ですか」
危うくタメ口になりかけ言い直す雑誌記者。
彼女に釣られている。
「はぁ〜、あんた、本当にあの雑誌の記者?新米?入社何年?編集部転属して何ヶ月?」
「雑誌担当して4年目ですし入社して結構経ってますよ。それよりとっとと説明を」
ぴッ、と雑誌記者の顔に人差し指が指される。
思わず顎を引いてしまう。
「あの後ろの砂利山に登んなさいな」

「わ────かりませんよ────??」
息を整えながら眼下を眺める雑誌記者。変人女がちっこっく見えた。
決して発する気の為に巨大な影を幻視するという事態にはならないのは世の常である。
さて、周辺にはデコボコした広場が広がるだけだ。
一体何だと云うのだろうか?

「しゃーないわねー。いまから石投げるとこに注目しなさい!!」
変人女が足元の石を幾つか拾う。
片手で数回弄び、投げた。


「一つ────」
「二つ────」
大きめの岩に座り、雑誌記者は休憩しながら眺める。溜息が出た。

「三つ────」
「四つ────」
ヒマなんで、変人女の数え歌に乗って石の着地点を数えていく。どこも窪みだ。

「五つ────」
「六つ────」
…………

「七つ────」
「八つ──」


待て。

「待て、待て待て」
顎を触り目を凝らす記者。伸びた不精ヒゲがちくちくする。
「まさか、これって────」
「分かった?」
変人女が移動し、そして広場の真ん中を縦にダーッと走った。
「コレが、尻尾を引きずった後ね」
更に彼女は横に逸れ、左右に互い違いに出来ているくぼみに入る。
「んでコレが、足跡」
よく見れば、ツメ跡らしきものも見えた。

まるでロールシャッハテストの様だが、一度見えてしまえばソレにしか見えない。
「アンタの居るそのガレキ山にも同じのが有るでしょー?」
見ると、砂利山にも数箇所互い違いに出来た窪みと、何かを引きずった跡がある。
雑誌記者の傍にもそのような跡があった。
後ろを振り返ると、岩山に不自然に崩落した跡がある。そこからずっと続いているようだ。
「そう、その通り────」
変人女の通る声が、岩山と砂利山と広場に響く。


「廃坑から怪獣が出現した、コレはその跡なのよ」









ゴリアテさんが入室しました

まみやんが退室しました
ココロさんが退室しました
E.Takaradaさんが退室しました

洋介->また来たのかよゴリアテ
プラッシ->ウザwwwwwww
洋介->イリス何で規制しないの?

ゴリアテ->uuuuuuuuuuuuryavbibduondounvuinvaaaaaaonaoinfiaouebficvaoduchoa
ゴリアテ->000000001034102emmcaopimfpzk.bpld,......fmんw9pんpのういsんpふぅあ
ゴリアテ->度簿wieyfbwfiufbぴうえbpib えfbpwomaeあおしvb答えろirisuwakaruだろ??
洋介->市ねneet

イリス->確かにproeのriumは現生代生物群を凌駕るがgometeusの遺伝子はoaidと思わ
ゴリアテ->あそfはおhovsoosdos黙れgbew3h9のlittlariaしネイsしネイsネs西根氏ね死ね
イリス->uuioうどunp994は貴様の同属にに対し使途炉nereer敢行しているはずnoosdfa
ゴリアテ->我々gometeusはpnpaii88i88のlittlariaに対しsiziiziszi絶滅するまdesensienn布

はりり->イリスさんしっかりしてください(><)
プラッシ->ちょwwwもしかして会話成立してねwwwww
ゴリアテ->残念ndonらlittlariabuebubeだがラwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
洋介->調子のんな>ゴリアテ









夏場に片頬焼けという悲劇を生む西日が、編集部をオレンジ色に染め上げる。
PCの前で編集長と雑誌記者が膝をつき合わせていた。

「ほォーう、怪獣の足跡な」
デジカメ画像を拡大する。崩落事故現場のあの足跡を撮影した画像だ。
「ええ」
「ま、見えないことも無きにしもあらず、といった所かぁ?それより────」



後ろのパテーションの向う、応接セットのあたりからあっひゃっひゃっひゃと大爆笑。

「何であいつが付いてきてるんだよ!」
編集長のハゲ頭が目の前に迫り、レーザーのような西日を反射してうおっまぶしっ。
間違い無く今日の昼はこってり背油ラーメンセットだったと思われる。
恐怖!背油太陽拳。

また向うからぶっひゃっひゃっひゃと大爆笑。
そろっと応接セットを覗いてみる。
変人女が茶菓子を食い散らかしながら笑っていた。
『本日午後3時頃、北山廃炭鉱の崩落事故現場において若い男女二人組みが乱入し…』
「そーそー!この時あの記者さんてばバケツとヘルメットと仕出し弁当抱えてね──!」
夕方のTVニュースを指してまた爆笑する変人女。
立ったついでのお茶くみが話相手にされている女子派遣社員、小坂が苦笑いしている。
「…………お前本当に何やったんだ?警察から連絡来て息止まるかと思ったぞ」
「えーと、ですね」


あの足跡を見つけた後、変人女は雑誌記者に妙な頼みをした。
警察その他の目を誤魔化せ。何としても誤魔化せ。そうすればあの足跡は貴社の独占!
態度に気圧され言葉に騙され────

雑誌記者は詰め所に侵入、気を引くため超絶わくわく変態ショーを敢行したのである。
「だから何でするんだよ!」
「ま、ま、それは置いといて」
すると、直後にあの足跡のあった辺りから爆発音。
土煙が上がり辺りは騒然となった。
──何と、変人女はあの出現跡の崩落岩盤を盗んだダイナマイトで爆破したのだという。
お陰で岩棚は吹き飛び砂利山は崩れ、折角の怪獣の足跡はガレキの下にサヨウナラ。

「独占ってそーいうことかい」
「…………みたいです」



「あららー、お客を放ったらかして何のご相談?」

変人女が割り込んで来た。編集長も雑誌記者も顔を引く。
「大丈夫いい記事になるって!それよりちょっとPC貸してくんない?あ、あれが一番高そ」
既に質問しないスフィンクスと化したおかじーの席へ変人女が向かう。
慌てて二人は後を追う。

茶碗と茶菓子を片付けながら小坂が云う。
「もう帰っていいですかぁ────編集長ぅ────?」
「おう、帰れ帰れ。済まんな時間取らしてー」
ブツブツ云いながら小坂が適当に湯飲みを片付ける。
応接セットのTVが、まだ夕方のニュースを報じていた。
『尚、このイタズラによる爆破跡からは行方不明の大学生6名が無事保護され…………』


「あぅン」
邪魔なおかじーはマグロの様に転がされた。
何だ今のキモチワルイ声は。
「あのーすんません、会社のPCなんで勝手に部外者は操作しないで頂け…………」
「じゃ、後でブラクラとスパムメール大量送付したげるから後始末ヨロシク」
ひでえ。
だが、彼女は目もくれずにブラウザを立ち上げると何処かのサイトのアドを打ち込み始めた。
「   ………────うェ!?あ、ちょ!何やって」
三年寝太郎がやっと目を覚ました。何故か焦っている。
「んーもしかしてブックマークしてたエロ同人サイト?大丈夫よーん触ってないから」
おかじーはワーワー云ってエサの麩を争うコイみたいに開いた口が塞げられない!
そしてトドメ。
「安心しろ、俺も知ってるし皆知ってる」

編集長の戯言により、サボリ魔変態オタメガネは塩の柱と化した。
成仏しろ。


「ホレっ、ここだ」
見ると、妙なHPが画面に出た。ロゴには鳳凰に似た鳥のマーク。サイト名は、
 【 虹 の 翼 】
だが妙に重い。何故だろう?編集部は光回線完備だというのに。
「今このサイト大騒ぎになってるからね。炎上しまくっててアクセス過多だからでしょ」
「あ、俺が見てたサイト」
おかじー見事塩の柱から復活。ゆっくり起き上がって背伸びする。
「じゃーあんた、ココの事情は大体わかってンね?」
「ええ、まあ」
なんのこったい??雑誌記者と編集長のハテナマーク無限1upをおかじーが阻止した。



「ええと、このサイトは元々個人サイトとして出発しまして」
各趣味に合わせて設置された掲示板と、管理人によるブログ。
始めは一人二人しか訪れる者が居なかった。
管理人本人も小学生のような稚拙な文章だったらしい。
それがやがてサイトも管理人も急速に成長した
どうやって勉強したのか本人の知識も技術もユーモアも相当となって、
今では管理人を中心とした総合コミュニティサイトとしてネット内の一勢力と化している。

「それが1週間前ぐらいから、妙な荒しが出没するようになりまして」
意味不明な言葉の羅列。
キーボードをランダムに押したような書き込み内容。
掲示板やチャットを埋め尽くすその幼稚な荒しは当初無視され、管理人が削除していた。
しかし何時の間にか、管理人はその荒しを放置するようになり────

「当初、管理人が毒電波に犯されたとか云われてましたね」
何と、管理人までもがその荒しに応酬するが如く、自らのサイトを荒し始めたのだそうだ。
掲示板を開けば意味を成さない文字の羅列が並んでいる。
ブログでさえもそうなっていた。
そんな中、4日前に管理人と荒しが書き込んだ奇怪な文章。

それが騒ぎの発端だった。



28 名前:ゴリアテ      14:23:35 メール
23:00zzzod廃炭鉱breakdown我現出セリしこしkoooolittlaria滅市64t7ualal((==

29 名前:イリス       14:23:37 メール
北山町bomb崩落ghsigsigsneonobei9r1p91n爆獏ハgometeusベ滑sikrosa0wowol



書き込みはほぼ同時である。
最初は誰も気に留めてなかったのだが…………
「予言したのか、あの事故を」
「ええ、一見意味不明な文章の中にキーワードが含まれてます。しかも時間まで正確に」
おかげで他の巨大掲示板からまで突撃者多数。ブログも掲示板も炎上したのだ。
中には荒しと管理人が共謀して北山廃炭鉱を爆破したという流言まで流れている。

「……って、皆さん如何したんですか?」
長口説垂れてたおかじーがふと気付いた。
他の3人とも掲示板の一点に集中している。さっきまで寝てた人間には分からない。
「マジか、この書き込み」
「そ。コレが、あたしの提供するネタ。アンタの価値判断は如何です?編集長サン」
「全部アンタの自作自演てなオチじゃ無かろうな?」
「ま、可能性としてはそちらの方が高いかもしれませんが、一応云っておきます。
 『ご冗談を?』」

今度はおかじーの頭上にハテナマーク無限増殖。しかし止める人間は居ない。



「『〜廃炭鉱breakdown我現出セリ〜』、つまりあんたに担がれたって事じゃなけりゃあ」
編集長が、年季の入った光沢を放つ頭を掻く。
油の代わりに、玉汗が光った。

「廃炭鉱からの”怪獣の出現”を、このサイトの荒し”ゴリアテ”と管理人”イリス”が──
 予言、したと?」
眼鏡のレンズが、ギラリと茜色に反射する。
「そゆこと」
















[[管理人イリスを罵倒して別れを告げるスレ36]]

1  名前:名無し       19:11:12 メール
うはwwwwwwwwwww立てるの俺かよwwwwwwwwwwwwwwww


225名前:梅埋め膿め   23:42:45 メール
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏氏ね氏ね氏ね氏ね
市ね市ね市ね市ね市ね市ね市ね市ね市ね市ね市ね市ねね市ね市ね市ね市ね市ね
誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌ね誌誌ね誌ね誌ね誌ね
師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね師ね

226名前:みやっち(^o^)ノ 23:55:10 メール
いままでありがとうございました

227名前:名無し        23:55:44 メール
煎りすアホだろ?

228名前:名無し        23:58:32 メール

〜厨に過剰反応するのはガキの証拠!!〜


229名前:キモチいいことしよ 00:12:51 メール

巨乳中学生ゆりりんです。この前おさななじみのまーくんちに遊びに行ったら、
まーくんのお兄さんにいたずらされちゃいました。初めてだったのに…………
しかもお兄さんのテクが気持ちよすぎて、おもらしまでしちゃいました。
イヤだったのに身体が反応して足の先までビクビクしちゃったんです……
でも結局親にばれて、まーくん達は別の町に引っ越しちゃいました。
からっぽになっちゃってさみしいあたしの身体、誰か慰めて♪お願い♪

http://www.gometeuscom.co.jp


230名前:名無し         00:33:05 メール
うんこ



=================================================================




455名前:洋介          03:19:08 メール
イリス居る?

456名前:イリス         03:22:36 メール
0248fb82bfylwidvl様介gometeusfらfらfら旅行宙vpeqr824410minaミナ強力頼むいむい

457名前:ゴリアテ        03:25:27 メール
すしししいssuisupp食うf区kえmのmethニjr襲iunq10ooおbiき妖精マトメ34-94h29^^^^喰

458名前:イリス         03:27:59 メール
tiktiktiktiktiktijr瀧ヶ浜isogu急吐露ねらサンデ─sosvvbブイブイ防御辞衛鯛ira────~~~~

459名前:洋介          03:28:02 メール
次は何?










[[イリス@管理人がお詫びにリアル降臨するoff]]

1  名前:イリス       09:39:09 メール
今回の『虹の翼』における掲示板・ブログにおける炎上について、
荒らしに対する大人気ない反応を行った事について、陳謝いたします。
正直本当は荒しをいじり倒そうとして行った事なんですがヒートアップしすぎますた。
ゴメンナサイ
m(   )m

お詫びにイリス本人が本日夜8:00、JR瀧ヶ浜駅前広場にてみなさまに謝罪offします。
ヒマ人居たら来て一緒に飲みましょ、イリスのおごりだおwwww
( ^ω^)


6  名前:名無し       11:34:55 メール
なにこれ本人?

18 名前:はりりー      12:01:05 メール
イリス痛いよイリス


28 名前:名無し       12:44:26 メール
>>6
普通に釣りだろ常識的に考えて…………


35 名前:名無し       12:59:06 メール
みんな逆に考えるんだ、本人奢る言ってんだから皆で押しかけるんだ
まるでエージェントスミスにように


112 名前:プラッシー     14:23:12 メール
おk、俺バラの花束持ってってそれでイリス殴る
でケツに挿す

113 名前:名無し       14:23:51 メール
折角だから俺はこの青いバイブをry)

115 名前:( ^ω^)     14:24:06 メール
アッー!

116 名前:名無し       14:24:15 メール
逃げてーイリス逃げてー














東京近郊、JR瀧ヶ浜駅前広場。
既に夕方のラッシュピークであり、サラリーマン、OL、学生でごったがえしている。
────そんな中に、毛色の違う妙な一群。
垂れ幕持ってたり、変なTシャツ着てたり、花束抱えてたり、ネコの着ぐるみ着てたり。



「あーんな釣りクサイ内容でも結構集まるもんねー」

変人女は駅前の植え込みで座り込んでいた。
紫煙をくゆらせながらパンプスを履いた脚を組み変える。残念ながらエロスには程遠い。
「ホレしっかりしんさいな、まだ2時間足らずは待たにゃ」
雑誌記者は頬杖ついて眉をゆがめる。
「ホントに確証はあるのか?『虹の翼』の掲示板釣堀状態だったろ」
既に変人女に対しタメ口。こんなのに脳髄のリソースを費やすのは馬鹿馬鹿しいのだ。
「あんたも見たでしょ?”イリス”らしいのがJR瀧ヶ浜って書き込んでたの。だから」
「だからって予言とは限らんだろが」


──確かにあの予言騒動以来、”イリス””ゴリアテ”を真似た便乗荒しが横行している。
お陰でどれが本人達の書き込みか全く不明。
本人らも本人と証明する書き込みをしていないのが更に拍車を掛けていた。

「ま、あの集まってんのも半信半疑でしょ。最悪みんなでズコーで話のネタにゃなるわ」
「…………あのな、俺一応仕事でココにいるんだが。おかじーにデジカメまで借りてるし」
「そだっけ?」
「シバクぞ」
「あたしはMじゃないから却下。シバく方なら考えないでもないけど、ン?」
雑誌記者は気が滅入る。編集長の事だ、タイムカードは既に押されてるに違いない。
サービス残業決定である。



既に日は暮れた。気のせいか平日なのに私服の人間が駅前に目立つ。
駅前の大型TVが、おかじーの云っていた自衛隊PC連続ハッキングの続報を伝えていた。

「…………ま、ちょっとした確証めいたモノはあるんだけどね」
「は?」

と、雑誌記者のポケットに振動。携帯におかじーからの着信。
「……──もしもー」
言い終わる前に横から手が伸び、変人女にかっさらわれた。
「はーいどーもー!何か分かったおかじーくーん!?」
『ええ!? ………ああ、ども。頼まれてたの一応、途中経過ですけど報告です』
「んで?」
『管理人の”イリス”ですがコレ個人プロバイダですね。他プロバイダとの契約は無しです』
「ふんふん」
『んで登録調べて、ワタシの知り合い該当住所に特攻させました』
「ほほーヤルねぇあんた」
『そしたらですね、そこは普通の民家で住民も知らないってんですよ。
 サーバ?何それ食えるの?って状態だそうでして』
「登録者の名前は?それも違う?」
『該当者は家族に居たそうです。でも絶対そんな事出来ないって────』
「何で」
『小学4年生の男の子だそうで。名前は”鹿島洋介”』
「ふーん洋介君ね。後で住所名前連絡先メールで送って。ほいじゃー」
うわ、勝手に切りやがった。

携帯を放って返す変人女。
「…………お前な」
「あんた、”洋介”君に覚えは無い?」
「は?いや特に無いが」
「……お、もうちょっとで予告の時間よ?」




駅名の横にある時計の光る短針が、ガコリと動く。
夕焼け小焼けのベル音楽と共に、駅前の噴水が噴出し始めた。

20:00時の時報。

少し、辺りが静まり返ったように感じた。
耳を凝らす。目を凝らす。何か異常は無いか注意を周辺に廻らせる。




────────何も無い。
駅前のoff会集団が何か寄声を上げたのを聞いて、緊張感が解けた。

雑誌記者は溜息一つ。ゆっくり立ち上がって伸びをする。
「もう、帰っていいか」
返事は無い。変人女はうつむいたまま。
ヤレヤレと頭を掻き駅へと向かう。
この時間からだとうちに帰れるのは何時になるのだ?あ、その前に会社に連絡を──
「待って」
袖を捕まれた。振り向くと変人女も立っていた。耳に手をあてている。
「…………聞こえない?」

何が、と云い掛けて口が止まった。
僅かに聞こえる。
低い地鳴り。
脇の植え込みがガサガサと音を立て始めた。向うのコンビニのガラスが波打っている。
────揺れてる!?
「……───────伏せて!!!」

次の瞬間、地面が爆ぜた。
衝撃に吹き飛ばされ、硬いアスファルト上を転がる。
背中を強く打ち雑誌記者はむせた。
身体に砂礫がパラパラと当たる。

目を開けると、駅前広場があった場所に土煙がもうもうと立ち上がっていた。











瓦礫が大量に埋もれ、土ぼこりが舞う。

ホスト系の男が悪態をつきながら立ち上がった。
見上げると、町の明かりらしき光がぼんやりと差し込み周囲を照らし出す。
────状況把握に時間が掛かった。もしや穴?ここは穴の中か?
水道管が破裂したのか、瓦礫の中から滝の様に水が噴出している。
横を見ると彼女が倒れていた。

抱き上げながら名前を呼ぶ。
目を開けた。
「ヒッ」
小さな悲鳴。彼女の視線を追い背後を見る。


ふしゅる。
ふしゅる。

夜よりも黒い巨大な影と、天蓋の月よりも輝く、
巨大な目玉。












「な、………何だこれ」

尻餅をついている雑誌記者。

靴の先には地面が無かった。
しばらくしてようやく事態が飲み込める。崩落だ。駅前広場が崩落し巨大な穴が開いている。
「ちょっと、大丈夫?」
変人女が手を差し伸べた。彼女の足許を見るとあのパンプスが無い。
衝撃で脱げたのだろうか?
体を持ち上げようとして気が付いた。脚に力が入らない。
「え?……あれ?」
「ケガは無いようだけど腰抜けた?じゃあ支えたげるから、ホレ」
少々戸惑いながら、彼女の肩を借りる。


────ふと、異臭。


この場に似つかわしくない、その匂い。

子供の頃行った巡業サーカスが、ふいと脳裏をよぎった。
ゾウやらライオンやらトラやらが披露する曲芸。
糞や尿や垢や肉や、濡れた毛や腐葉土や、その他様々なモノが混ざり合った────

────獣の匂い。



ふしゅる。
ふしゅる。
目の前の陥没した穴の中から、不気味な鼻音の様なものが聞こえてくる。












ふしゅる。
ふしゅる。


瓦礫の中を駆け回る男。
背後は絶対に見ない。見てはいけない。
あの音は死の音だ。
殺される。


ふしゅる。
ふしゅる。

背後からは助けを叫び呼ぶ彼女の声。
そして、生臭く荒い鼻息の音に、声がかき消される。











穴の向こう側の大型ネオンがふっと消えた。
────いや、消えたのではない。何か大きな影が穴の中から立ち上がっている。
静まり返る人々。
只荒い鼻音が、その影から聞こえてくる。

ふしゅる。
ふしゅる。

街頭の光が反射するのか、薄緑色に光る巨大な目玉がある。
それ以外は逆光なのか、吸い込まれるような黒一色。

ふしゅる。
ふしゅる。

その影が穴からせり出し、人々の上に伸びてきた。

ぐちゃり。
ぼとり。

飛沫が頬に当たる。
何かが落ちた。
女子高生が頬に付いた飛沫を、背広の男性が目の前に落ちた物体を確かめる。
落ちて来たのは、


────鮮血と、男の上半身。




「う、うわあああああああああああぁァ!!?」
誰かの悲鳴とともに穴周辺の人間が雪崩を打って一斉に逃げ出し始めた。
その人々の悲鳴をかき消すように、

────月をも歪める、肉食獣の大咆哮!!

変人女と雑誌記者は突然の人波に追突され道の脇にすっころぶ。思いっきり顔を打った。
「イって…………お前大丈夫か、っておい!?」
「ん、何?」
変人女の顔を見てびっくり、豪快に鼻血を垂らしていた。
「おおーう、こりゃスゴ」
「スゴいってレベルじゃねーぞ!早くティッシュか何かで止めて────」




   ふしゅ───────るるるるる────…………





吹き抜けたのは、猛烈に生臭い風。
動きを止め、雑誌記者はそっと背後の穴の方を振り返る。
黒い影は消えていた。向こう側のネオンサインがカクテルをグラスに注いでいく。
三分目。
五分目。
七分目。
────満杯になる直前、

穴の中から、巨大な脚が。
三本のギロチンの様な爪が、コンクリートとガラス片をいとも簡単に破砕する。
更に離れた縁にもう一つ。
衝撃でアスファルトが塊のまま持ち上がり、砂礫が跳ねる。

そして二つの脚の真ん中から、
────────釣り針の様に曲がった角が
──────悪夢の獅子の如き貌が
────白木の如き巨大な牙が、
──ぬうと姿を現し、
目が合った。


 咆 哮 !!


二人の周囲の大気が振動し、クモの巣状に割れた窓ガラスが音を立てて崩れ落ちる!
飛び起きる雑誌記者。
逃げようと変人女の手を引くが、オモリのように動かない。
「……!?どしたオイ!?」
「ごめん、今度はあたしが足くじいた」
「ヘラヘラ笑ってる場合か!」
後ろをちらと見る。
黒山のような巨体が穴から持ち上がり夜景を覆う。
一升瓶程も有る牙がずらりと並び、赤いものの混じる唾液が飛び散る。

まさに悪夢だ。
あの怪物が血肉と粉塵の香る悪夢を呼んだ。




「……そだ、あんたデジカメ!デジカメ何処!?」
「待て、何だ!?ちょこここらやめウヒッ」
いきなり変人女に身体をまさぐられる。背中や妙なところまで触られ慌ててると、

バッと閃光!
影の怪物がたじろき、よろめく。
いつの間にやら内ポケットのデジカメを奪われていた。
続いて閃光、再び閃光。どうやらカメラのフラッシュで怪物を脅しているらしい。

怪物は強烈な光が苦手なようだ。
上体を起こし悶えると、大通りの大型ドラッグストアに頭から突っ込んだ。


『ピギャアアアアアアアアア────アァアァァ!』
思わず耳二人とも耳を塞ぐ!
百万の猫で黒板を引っかいたような悲鳴だった。
全身を覆う荒毛を揺らしながら、怪物はいきなり直立した。
隣のビルの看板を悠に越えている。
怪物はその場で長大な尾を振り、身をひるがえすと出てきた穴の中へ潜り始めた。
「う、おわ!?」
「脇に避けて!」
アスファルトがひび割れ、剥がれ飛ぶタイルが波を打つ。

────地響きが、変人女と雑誌記者の足許を駆け抜けていった。






土煙でむせた。

薄汚れた姿で呆ける二人。ふと横を見る雑誌記者。
「…………お前、鼻血」
ハンカチを差し出す。
「あ、うん」

ブミ────!!変人女が鼻までかんだ。
「…………何で俺のソデなんだよ」
「ん゛?」



何処かから、パトカーと思われるサイレンが聞こえていた。




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